瀬戸内海の浅瀬名について

(注意事項)

まえがき

 浅瀬は古来航海の難所として恐れられる一方、漁業者にとっては魚介類の棲息所(漁場)として注目されてきた。航海安全のための水路測量も、浅所を明らかにすることに主眼が置かれてきたといえる。この関係から海図上には測量時に現地で調査した浅瀬の名称が地名として記載されており、その数は全国で6,000個以上もある。
 もちろん、これらは限られた縮尺の海図に記入されているに過ぎないものであるから、その数は実際にある名称の何十分の一という程度のものと推定される。
 例えば宮崎県の釣場を調査したある研究者は、その中に「出シ」のついた暗礁名が35個あると報告しているが、海図に載っているものはわずかに11個に過ぎない。また漁業権を公示している各県の県報には海図に記載されていない多くの岩礁名がある。また釣の愛好者が使用しているさまざまな地図も、海図にない数多くの浅瀬名を載せている。
 成因が陥没に起因し、大小2千数百の島嶼が点在する瀬戸内海にも海図に記載してある浅瀬名だけでも1,000個以上もあり、さまざまな名称で呼ばれている。これらを日本の各地で呼ばれている浅瀬名との関連において考察してみたい。
 なお本稿では、海図にある名称を中心に話を進める都合上、地名は海図記載どおりとし、参考までに海図番号を付記した。


日本各地の主要な浅瀬名



  1. クリ、グリ、繰、礁(ぐり)

  2.  まず本州の日本海側の男鹿半島沖から関門海峡に至る広い海域では、岩礁は くり″(ぐり)の名で呼ばれ、海図上では繰、クリ、グリ、礁と表記されている。漢字は繰と礁が当てられているが、このうち繰は飛島、粟島以外には見られず、他の地域では礁の字が当てられている。

  3. 根、ネ

  4.  本州の太平洋側の尻屋埼から伊良湖岬周辺までの海域では、根(ね)″ の付いた岩礁名が支配的である。根はさらに伊豆諸島、火山列島、小笠原群島に及んでいる。北海道にも根のつく浅瀬が点在するが、それらはずっと後に命名されたとみてよさそうである。

  5. 碆(はえ)、バエ、ハエ、=(はや)、礁(べー)

  6.  潮岬付近から紀伊水道、四国南岸を経て九州東岸の都井岬に至る海域で、支配的なのはハエ、ハヤ、ハイ、ベーと呼ばれる岩礁名である。海図上ではハエ、バエ、碆、=、礁などと表記されるが、このうち=は豊後水道の大分県側で、残りはほとんどが碆である。
     なお、この碆の水深の深いものは「シ」といい、かつては漢字で沚の字が当てられていた。国土地理院の地図で岩と書いてバイと読ませているケースもある。
    責任者 注:=は石偏に并

  7. 曽根(そね)、ソネ

  8.  関門海峡の西口から五島列島を含む九州西岸域では、曽根を付した岩礁名が拡がっている。曽根はさらに南西諸島沿いに石垣島周辺までの海域に分布している。とくにこの諸島周辺にある多くの堆にもこの名称が付いている。漢字の表記はほとんどが曽根であるが、稀に「根」もある。
    責任者 注:=は石偏に曽

  9. 干瀬(びせ、びし)

  10.  沖縄の周辺では、さんご礁の礁原部をいう「ビシ」という言葉がそのまま岩礁名となっており、海図上でしばしば「干瀬」の字で表記されている。

  11. ソリ、シュマ、シラル

  12.  北海道ではアイヌ語の岩礁を意味する「シュマ」、「シラル」などが局部的に存在するほか、「ソリ」の付いた岩礁名が、北は礼文島から北海道西岸〜南岸に至る広い海域に点在している。

  13. 島(しま)

  14.  通常、海上に孤立している小陸地を島と云い、これを拡大解釈して岩といってよい程の小さな岩礁をも島と呼ぶのは現代語で珍しいことではないが、海面下の、しかもかなりの水深のある岩礁をやはり島といっている地方がある。三河湾口から伊勢湾口を経て志摩、紀伊半島沿いに田辺湾に至る海域で、水深の大きいものを拾ってみると、丸島(一七メートル)、岩ヨセ島(一六メートル)、マスノ島(一六メートル)などがある(カツコ内は水深値)。

  15. ビラシ、ビラセ

  16.  大王崎から勝浦湾付近までの海域には前記「島」のほかに「ビラシ」あるいは「ビラセ」という浅瀬名がある。

  17. 瀬(せ)

  18.  いままでに挙げたいくつかの岩礁名は、ある一定の海域に限定されているものであったが、本州東岸を除くほぼ日本全域にわたって分布している浅瀬名「瀬」がある。もっともこの瀬の分布の度合には濃淡があり、北海道、本州北西岸、本州南岸東部の海域はそれほど多くないが、本州南岸の西部、これから述べる瀬戸内海や、九州沿岸では密になっている。漢字は「瀬」を用いるが、まれに礁の字を当てる地方がある。


瀬戸内海の浅瀬名(普通名称)

 この海域の浅瀬名をその数の多い順に列記すると瀬、石、岩、磯、ソワイ (ソワ)、出シ、州、碆、礁、藻、ツガイ、ソノ、アサリ、喰合などがある。このうち「出シ」「ツガイ」「喰合」はこれら暗礁の位置を探し出す目的で付与された特別な呼び名で、航海・漁業用語ともいえるものである。


  1.  全海域にわたって見られるが、他の呼称を有するものと本質的な差がないことは、つぎに示すいくつかの岩礁についての別名、あるいは旧名がこれを証明している。
     広瀬(別名〜年越磯)
     甚平ソワイ(旧名〜赤鼻瀬)
     横瀬(別名〜五次郎碆)
     ただ内海東部の海域に見られる鹿ノ瀬、室津ノ瀬、中瀬、団子瀬などは長さ数キロに及ぶ細長い砂州であり、このような形態は、他の呼称の浅瀬には見られない特徴である。
     また瀬戸内海の「瀬」はほとんどが水面下の浅瀬であるのに対し、九州沿岸の瀬は水上岩が多く、中には三〇メートル以上の高さをもつものもあるのは興味深い。

  2. 碆、ハエ、バエ、砠

  3.  すでに述べたように碆は紀伊水道、四国南岸、九州東岸で岩礁をいう言葉であるが、その分布域の北部を含んでいる瀬戸内海にも、この流れが入り込んでいる。すなわち西部では豊後水道の速吸瀬戸付近から別府湾周辺、東部では紀伊水道周辺から鳴門海峡の東口に集中し、その他の海域にはほとんど見られない。広島湾にあるこの礁名には、砠の字が当てられている。

  4. ソワイ、ソワ

  5.  小豆島の東から広島湾までの海域での岩礁の呼び名で、その表記はほとんどが仮名書きであるが、まれに礁の字を当てている(例えば、尾道付近の「似骨ノ礁(そわ)」)。『全国方言辞典』によると広島県江田島では「そわえ」であるという。海図では広島湾内に「沖ソバエ」がある。




  6.  現代語で岩礁を意味する「礁」を付した浅瀬名もこの水域にかなりあるが、これらは新しい時期に命名されたものと思われ、ローカルな名称として考察できないものである。例えば金剛礁(三原瀬戸)は軍艦金剛が坐礁して命名したものである。かつて水路用語では水深二メートル以内の波浪を起すことができる岩石などを礁と規定していて、わかりにくい浅瀬名にはしばしば礁を付けて海図に記載していた。例えば伊勢湾口の「出シ」のついた岩礁にさらに礁を付けて丸山出シ礁、常光寺出シ礁、坂手出シ礁のような表記である。現在これらの名称から礁の字は脱落している。

  7. 石、磯

  8.  礁と同じようにローカルな地名ではないが、石、磯のつく浅瀬名は内海に多く、海図図載の浅瀬名の約二〇%を占める。そして形態は水上岩、干出岩、暗岩のいずれの場合にも見受けられる。また分布域も特定の海域でなく、全域にわたっている。

  9. 藻、モ

  10.  浅水地をいう「州」もこの水域に多い(浅瀬名の約五%)が、同じような地形を指す「モ」という呼び名も全域に分布し、漢字は「藻」が当てられている。この浅瀬の底質は大部分が泥であるが暗岩もいくつかある。

  11. アサリ

  12.  浅瀬を示す古語「アサリ」のついた地名が塩飽諸島、大畠瀬戸、来島海峡、周防灘の姫島沖に点在している。備讃瀬戸航路の中央にある「金出ノアサリ」は古来鯛の漁場として有名だった。全国的な規模では「アサリ」は山口県の日本海側にあるだけで、他の海図上ではまったく見当らない。

  13. ソノ

  14. 「魚の釣れる所」をいう岡山県の方言とした文献もあるが、鳴門海峡、早崎瀬戸に集まっているほか、備讃瀬戸東航路の北側にも「オーゾノ瀬」がある。あとの海域には見られないが、「オードノ礁」(呉港〜海図第一一〇九号)、「大殿」、「小殿」(海図第一一三一号)、「オードノ瀬」(海図第一一一三号)、「大殿石」(海図第一四一号)なども同じ種類のものと思われる。


     つぎのH〜Jの地名は昔漁夫が海上で自分の位置(すなわち漁場)を記憶するために命名したもので、陸上の目標がある位置より見出されるとき、その漁場を目標の名で呼んだものである。
     
    H出シ
     瀬戸内海には約六〇例がある。島名(稲木出シ)、岬名(カン崎出シ)、山名(遠見出シ)などさまざまな目標名で呼ばれている。「出シ」は全国的に分布していて、この種の地名でもっとも多く見られるものである。
    「稲木出シ」は備讃瀬戸を北航して屋島の北端長崎鼻へ稲木島の島頂が見え出す地点、「遠見出シ」は同じく備讃瀬戸を北航して屋島台地の北端に遠見山を見出す地点にある(海図第一三七号A参照)。
     なおこの「出シ」は遠景と近景を横に重ね、ずらして見る例であるが、これを縦に重ね、一方が他方にもたれるような状態になったものを「モタレ」と呼ぶ。瀬戸内海の海図には見当らないが、千葉県犬吠埼の沖合には、例えば「一ノ島モタレ」、「鵜島モタレ」など(海図第八五号参照)、この名のついた岩礁名が多く見られる。


     
    Iツガイ
    「ツガイ」は交接の意味で、ある島の北端と別の島の南端というように反対側が相接する線上にある岩礁名に付けられた地名である。塩飽諸島を中心とした海域にこの地名が残っていて現在約二〇例がある(海図第一一二二号参照)。
    「羽佐島ツガイ」は岩黒鳥東端と羽佐島西端のつがう線上にあり、「大槌ツガイ」は岩黒鳥北端と大槌島南端のつがう線上にある。
     
    J喰合
    「ツガイ」「出シ」とともに瀬戸内海にあるもう一種類の地名に「喰合」がある。海図に載っているのは広島湾南部の屋代島の北側にある三例だけであるが、広島県豊田郡の豊島では、このような方法で山を立てることをヤマグイアイといっている。
    「飛瀬喰合」はオイト島の北端と飛瀬島の南端が重なる線上にあり、「ハンド喰合」はオイト島の南端とハンド島が重なる線上にある(海図第一四二号参照)。
     同種の地名として九州西岸の「伊島喰合」(海図第一九八号)があり、山口県にも「観音喰合瀬」がある(海図第一四九号参照)。
     なおこの種の浅瀬名としては、さらに目標がけぬき合わせになっているところから「合セ」〔例として「切立合セ」(海図第一九〇号参照)、「コウゾ合セ」(海図第八四号参照)〕、ある目標にもう一つの目標がかかるところから「掛ケ」と命名した浅瀬名〔例として「高島掛ケ」(海図第六四号A)「宮掛ケ」(海図第一〇六二号参照)〕などがあるが瀬戸内海の海図上には見当らない。




     Kその他
     別の海域では多いが、ここ内海では少数派のいくつかの岩礁名がある。
    (イ)根 三原瀬戸の入口に「赤根」があるほか、紀伊水道の東側和歌山下津港に「梶取根」がある。また根のつく浅瀬名に「根ナシ礁」「根ノ石」もある。
    (ロ)グリ 来島海峡に「黒グリ」、広島湾に「クロホグリ」があるだけだが、グリのついた地名が広島湾北部の岬名「鼻グリ」や、有名な「鼻栗瀬戸」、もう一つの「鼻繰瀬戸」がある。
    (ハ)曽根 関門海峡に「大根」、広島湾に「大ゾネ」、徳山湾に「大曽根」、蒲苅港南に「沖ノソネ」があって、全国的な曽根の分布域に近いが、紀伊水道の小松島港にも「高曽根」がある。
    責任者 注:=は石偏に曽


    瀬戸内海の浅瀬名(固有名称)

     第二章では浅瀬を示す用語(普通名詞部分)について述べたが、この章では固有名詞部分について考察したい。
     浅瀬の固有名は多様であるが、これを分類すると浅瀬の地理的条件から、すなわち漁業者が自分の漁村を中心にその位置関係から命名したもの (例えば「沖ノ瀬」「地ノ瀬」「上ノ石」「下ノ石」「横瀬」)、形態により命名したもの(例えば「大石」「小磯」「平瀬」「丸岩」「長磯」)、色彩により命名したもの(例えば「赤碆」「白石」「黒磯」)、漁獲物を名としたもの(例えば「イガイ瀬」「床」「鰯礁」「ワカメ礁」)、人名すなわちその浅瀬の発見者名と思われるもの(例えば「弥左衛門瀬」「孫兵衛岩」)などがある。
     海の地名の特徴は、その位置関係をいかにに示すかに重点が置かれているといえる。「出シ」「ツガイ」「喰合」などはその機能上からすべて水上の目標物から命名されていることはさきに述べたとおりであるが、さらに固有部分が位置関係を示しているいくつかの岩礁名について述べる。
    責任者 注:=は魚偏に(青の旧字体)

     
    @地(じ)と沖(おき)
     陸岸からの遠近によって浅瀬を区別する命名法としては、「地」と「沖」がもっとも一般的で、この水域ではつぎのような例がある。
    「地ノ磯」「沖ノ磯」(柳井港付近 海図第一五二号)
    「地ノ瀬」「沖ノ瀬」(屋代島久賀港 海図第一四二号)
    「地ノ筏」「沖ノ筏」(徳山下松港 海図第一一〇六号)
    「地ノ石」「沖ノ石」(播磨灘上島 海図第一三一号)
     なお、地域によっては陸側をさすつぎのような区別語が使用される。
    「オカノ瀬」「沖ノ瀬」(北海道松前港 海図第二二号)
    「岡俎岩」「沖俎岩」(中海 海図第一一七四号)
    「磯二子」「沖二子」(佐渡小木港 海図第一一九八号)
    「灘ノ瀬」「沖ノ瀬」(七類港 海図第一一六号)
    「ヘタノトー瀬」「沖ノトー瀬」(伊万里湾 海図第一六六号)
     灘は沖合の風波が荒く航海の困難な海をいう場合と、このように海岸部を指す正反対の場合とがある。

     
    A上(かみ)と下(しも)
     位置関係を示す区別語としてはさらに「上」と「下」がある。海図上にあるものを示すとつぎのようなものがある。
    「上コーズ瀬」「下コーズ瀬」(徳山港 海図第一二六号)
    「上高瀬」「下高瀬」(三原瀬戸 海図第一〇三号)
    「上ノ州」「下ノ州」(早崎瀬戸 海図第一二五号)
    「上シヅモ」「下シヅモ」(家島諸島 海図第一一一三号)
    「上ノ石」「下ノ石」(燧灘西部 海図第一一二八号)
    「上筏」「下筏」(牛窓瀬戸付近 海図第一一一四号)
    「上新瀬」「下新瀬」(富岡港 海図第一一四七号)
    「上」を付けた浅瀬は東側に、「下」の付いたものは西側に位置しているが、紀伊水道では北側が「上」で京阪方向を示している。また広島湾の早崎瀬戸では北側が「上」、南側が「下」となっている。
    「上」を上手、「下」を下手とていねいにいう地方もある(「上手ノ正根」「下手ノ正根」海図第八七号参照)。

     
    B中(なか)
     二つの対象物(島と陸、岬と岬、あるいは島と島など)の中間にある浅瀬には「中」の区別語が付与される。
    内海には非常に多く二〇数例ある。その中のいくつかを拾うとつぎのようになる。
    「中瀬」(鳴門海峡の門埼と孫埼の間)
    「中ノ瀬」(大畠瀬戸の東口中央部)
    「中ノ瀬」(広島湾大那沙美島と西能美島の中間)
    「中ノソワイ」(小豆島西部の「イチノソワイ」と白石の中間)
    「中ノハエ」(津田湾東側の四国本土と頭白岩との中間)
    「中ノハイ」(蒲刈港小松島と大松島の中間)

     
    C合、相、間(あい)
     中と同じような位置にある浅瀬に対して、事物と事物との中間を意味する「アイ」の語が付く場合がある。漢字は間、合、相などが使用され、なにか別の意味をもつように感じさせるが、これらを広島湾の海図上で見ると、すべて同じ意味であることがわかる(第5図参照)。つぎのような例がある。
    「相ノ瀬」(鳴門海峡 海図第一一二号)
    「間ノ磯」(岩国港 海図第一一三号)
    「合ノ磯」(鹿川港 海図第五七八〇号七八)
    「アイノソワイ」(備讃瀬戸 海図第一三七号A)
    「合ノ瀬」(広島湾 海図第一四二号)
    「相ノ瀬」(柳井港 海図第一六三号)
    「相ノ石」(燧灘 海図第一一二八号)


     
    D前
     普通名詞「前」を付けて浅瀬の位置を表わす命名法もある。
    「前礁」(宇野港の北側 海図第一六五号)
    「前磯」(川之江港の前面 海図第一六五号)
    「前瀬」(庵治町江ノ浜前面 海図第一三七号A)
    「前ノ瀬」(豊岡港の前面 海図第一二一九号)
    「前ケ瀬」(藍ノ島の前面 海図第一二六四号)
    「高見前瀬」(高見島前面 海図第一三七号B)
     最後の「高見前瀬」のように本来は固有名詞部分がないと部外者にはなんの前かがわからないが、地元の人にはこれで十分理解できるものと思われる。
     
    E横
    「前」と同じように なにかの横″を意味する「横」を付けた浅瀬名もある。
    「横瀬」(淡路島東側 海図第一三一号)
    「横瀬」(淡路島西側 海図第一三一号)
    「横ゾワイ」(備讃瀬戸 海図第一一二二号)
    「横瀬」(クダコ水道 海図第一一三一号)
    「横州」(由利島北方 海図第一六四号)
     
    F東、西、南、北
     相並ぶ二つの岩礁を方位で示す場合もあり、これも地名と同様である。
    「北ソワイ」(広島湾 海図第一四二号)
    「北ノ城出シ磯」(福山港 海図第一一三七号)
    「西ノソワイ」(岡山水道入口 海図第一五五号)
    「西ノセトグイ」(備讃瀬戸 海図第一三七号A)
    「南ノアサリ」(姫島水道 海図第一一〇一号)
    「南ソワイ」(広島湾 海図第一四二号)
    「東ノセトグイ」(備讃瀬戸 海図第一三七号A)
    「東片見根石」(錦海湾 海図第一一一四号)
     
    G陸の地名を冠した浅瀬名
     東京の前面の湾を東京湾、相模の国のそれを相模湾というように、多くの海の地名は陸の地名をとって命名されるが、これは浅瀬名の場合も例外ではない。つぎに、付近の地名から命名されたいくつかの浅瀬名をあげておこう。
    (イ)岬名
    「宇埼ノ沖ノ石」(因ノ島土生港 宇埼から 海図第一〇二号)
    「亀山鼻ノアサリ」(水島航路 亀山鼻から 海図第一一二二号)
    (ロ)島名
    「左組ノ石」「大崎上島北方 左組島から 海図第一〇三号)
    「六口瀬」(水島航路 六口島から 海図第一一二七号A)
     (ハ)字名
    「和間ノ瀬」(大分中津港 和間から 海図第五八五〇号一二一)
    「奈多ノ瀬」(別府湾口 奈多から 海図第一二一八号)
    「ボーゼ磯」(来島海峡 ボーゼから 海図第一三二号)
     以上は地名から浅瀬名が生まれたものだが、これらと逆の場合、すなわち浅瀬名から地名が形成されたと思われるケースもある。
    「白石」から「白石ノ鼻」(松山港口 海図第一一二四号)
    「長磯」から「長磯ノ鼻」(来島海峡 海図第一三二号)
     
    H色彩から
     色彩から命名されているものとして内海では白が圧倒的に多く、約二〇例あるが、つぎは赤、黒の順となっている。もっともこの中には岩礁そのものの色でなく、海鳥のふんなどによって白色を呈したり、藻類によって黒色に見えるものもある。
     なお九州の海域では黒がかなり多い。
    「白石」(布刈瀬戸 海図第一一一四号)
    「白石」(濃地諸島 海図第一一二七号A)
    「白石」(広島湾 海図第一一三一号)
    「白岩」(水島航路 海図第一一二二号)
    「白州」(関門海峡 海図第一三五号)
    「黒瀬」(三田尻中開港 海図第一一三四号)
    「赤バエ」(富岡港 海図第一一四七号)
     
    I形状から
     岩礁の形状にもとづいて命名されたものも、かなりある。
    「平瀬」(宇部港 海図第一二七号)
    「平磯」(明石海峡 海図第一三一号)
    「平瀬」(速吸瀬戸 海図第一二一八号)
    「大岩」(上関海峡 海図第一一三〇号)
    「大磯」(大畠瀬戸 海図第一五二号)
    「円岩」(馬島水道 海図第一一三二号)
    「大石」(安芸灘 海図第一四一号)
    「小磯」(安下庄湾 海図第一一三二号)
    「小赤石」(片上港付近 海図第一一一五号)
     
    J人名
     はっきり人名とわかるものは、他の海域に比べると意外に少ない、内海の浅瀬の公共性にもとづくものであろうか?
    「孫兵衛岩」(小豆島東方 海図第一五〇号B)
    「弥左ェ門礁」(安芸灘 海図第一〇四号)
    「伝作ノ瀬」(関門六連鳥 海図第一二六四号)
    「長太夫礁」(尾道糸崎港 海図第一一一七号)
    「太郎兵衛岩」(因島西方 海図第一一四号)
    K魚介類名
    さまざまな漁獲物の名が冠せられているが、これらは現在あるいは過去にそこで獲れた魚介類の名称と関係あるものと思われる。
    「アジ岩」(菊間港 海図第一一三八号)
    「イカナゴ瀬」(備讃瀬戸 海図第一三七号A)
    「イガイ瀬」(関門藍ノ島 海図第一二六四号)
    「鰯礁」(岡山水道 海図第一一一四号)
    「オコゼノ瀬」(秋穂港 海図第一二七号)
    「栄螺瀬」(関門六連島 海図第一二六四号)
    「スズキソワ」(白石島 海図第一一一八号)
    「タコゾワイ」(福山港 海図第一一三七号)
    「ワカメ磯」(来島海峡 海図第一三二号)
     
    L操船の障害など
     浅瀬の固有名の分類ほまだまだつきないが、最後に航海上(操船上)重要な浅瀬名について述べたい。危険物である浅瀬を示す名称としては、触礁を意味する「かじかけ」がある。
     内海では下記のようなものがある。
    「梶掛」(新居浜港 海図第一一二〇号)
    「梶掛ノ瀬」(早崎瀬戸 海図第一二五号)
    「カジカケ」(白石島 海図第一三七号B)
    「梶掛石」(三津口湾 海図第一四一号)
    ほとんどの礁の水深は一〜二メートルで、きわめて危険なものであるが、沖家室島にあるものは水深五メートルでかなりの大型船を意識したものである。
     なお「かじかけ」の付く浅瀬ほ全国的に分布し、海図に記載されているものだけでも三〇個以上もあり、表記の仕方もさらにつぎのようなものがある。
     揖懸、梶懸、舵掛、梶缺、舵カキ、カジカキ。また、北海道有珠湾にあるチーボッケショマ (海図第一九号参照)もアイヌ語の同じような意味で、古来接触した船が多かったという。
     もう一つの地名「かんどり」について述べよう。梶取埼あるいは梶取岬の地名は各地にあり、その岬を通過して針路を変える場所であるという。瀬戸内海にも来島海峡の西口に梶取鼻があり、東口の地蔵埼もかつては梶取埼といった。
     浅瀬名にも同じ目的に使用しているかどうか不明であるが「かんどり」のつくつぎのような地名があって、紀伊水道に集中しているのが興味深い。
    「梶取根」(和歌山下津港 海図第一一四四号)
    「梶取礁」(日ノ御埼 海図第九七号)
    「梶取碆」(橘浦 海図第一一〇四号)
    「梶取」(富岡港 海図第一一四七号)
    「沖ノ梶取」(富岡港 海図第一一四七号)


    あとがき

     以上海図に記載されている瀬戸内海の浅瀬名について、ごく大ざっばに述べたが、前に書いたようにこれら以外に海図には載っていない多くの浅瀬名があることは明らかである。
    一つ一つの岩礁名を見ると語源のはっきりしないものが実に多い。それらはすでに使用されなくなった言葉とか地名その他に由来しているはずである。おいおい調査して見たいと考えている。いろいろ御教示願えれば幸いである。
       (水路図誌複製「海上保安庁承認第五九〇六一七号」)




    責任者 注:
     以上は、地名研究協議会「地名研究年報」第1号(昭和59年5月25日発行)に投稿された海上保安庁OBの跡部 治氏に了解を得て掲載いたしました。また特殊な漢字が含まれていたため、その部分を”=”で表し、段落の終わりに漢字の説明を付記しました。







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