平成23年 9月 27日
                                            第五管区海上保安本部
                                            下 里 水 路 観 測 所

               人工衛星を追いかけて30年

               〜人工衛星レーザー測距観測3万回達成〜

  下里水路観測所は、海図作成をはじめ、我が国の大陸棚主張や地震による海底 
 地殻変動の監視に不可欠な測量の基準点(本土基準点)を決定するために、人工 
 衛星へのレーザー測距観測を日々行っています。
  昭和57年3月9日にレーザー測距観測を開始し、30年目の今年9月9日、通算観測 
 回数が3万回に達しました。

  私たちが生活する地球の表層(プレート)は、ゆっくりと移動しています。
 このため、各国の海洋権益に直接結びつく排他的経済水域、大陸棚の
確定や地震による地殻変動の監視などには、グローバルスタンダードで
正確な位置の測定が必要となります(図1参照)。 このような位置を
測定する方法として、地球の重心を周回する人工衛星の軌道解析に基づ
いた地球座標系があり、一般的にはGPS等で活用されています。

 下里水路観測所(和歌山県那智勝浦町)では、昭和57年から本土基準
点を決定するために、人工衛星の軌道解析に不可欠な地上から人工衛星
までの距離をレーザー光で正確に測定するSLR(※1、図2参照)を行って
います。
観測は、地球上空 500kmから2万kmの軌道上にあるレーザー反射鏡を搭
載した距離も高度も様々な人工衛星21個を対象にレーザーを当て反射し
てくるまでの時間を計測して距離を求めるものですが、晴天率に恵まれな
い日本において衛星を追尾し続け、高い精度の観測を数多く行うことは極
めて困難です。

 しかしながら、同観測所では、観測開始以来、ハードとソフトの改良を地道に重ね、現在では、
6千km離れた人工衛星までの距離を1cmの精度で測定できるまでに向上させています(世界の
SLR局で10位内の精度を維持)。 この高い観測精度に支えられ、平成23年東北地方太平洋沖
地震では、東北一帯の陸上基準点が大きく移動した際も、被災した港湾における海図改版のた
めの緊急測量や宮城沖海底の移動量の測定に必要な本土基準点として貢献しました。

 地球座標系の維持には、地球上に点在する47箇所のSLR局(図3)での
長期で安定した観測データが必要ですが、この度、各SLR局の観測成果の
有効活用を目指す組織であるILRS(※2)から、数少ない東アジア地域の重
要なSLR局としての観測を全うしてきた実績に対し、通算観測回数3万回達
成を契機とした祝賀状(別紙参照)をいただきました。

 グローバルスタンダードな測位が求められる現状において、下里水路観
測所は「継続は力なり」をモットーに、これからも本土基準点の決定を縁の
下から支える観測を行っていきます。

※1 人工衛星レーザー測距(SLR:Satellite Laser Ranging)
※2 国際レーザー測距事業(ILRS:International Laser Ranging Service)