Q:海面がラグビーボールの様な形になるのはどうして?

A:

地球上の各点に働く力

図3-1:地球上の各点に働く力

次に、地球表面上の適当な1点 (Ga)  に働く力を見ます。

Ga に働く力は、地球の引力(地球自転を無視しているので、 ここでは重力 (g) )と月による引力 (Fm) になります。 重力 (g) は、地球表面上の各点において略等しく、かつ、地球中心に向いて働いているので 海水の上下運動という潮汐を引き起こす力とはなりません。
一方、月による引力 (Fm) は、月の中心からの距離が異なるため、 その力の大きさが異なっています (但し、地球中心では月による引力 (Fm) と遠心力 (Fr) とは一致)。

地球上での遠心力 (Fr) が同じであるに対して、 月による引力 (Fm) は異なっています。 そうすると、平行四辺形の定理によってその合力に差が生じます(図3-1)。 この差のことを起潮力 (Ft) と言います。

起潮力は、月に近い点 Ga1 では、 月による引力 (Fm) の方が遠心力 (Fr) より大きいため 月の方向へ働きます。 逆に月から遠い点 Ga2 では、 遠心力 (Fr) の方が月による引力 (Fm) より大きいため 起潮力 (Ft) は、月とは反対の方向へ働きます(図3-2)。

そして,この起潮力は、重力を極僅かに変化させます(例えば、点Gnでは1.1×10-7g :10トンのトラックが約1g軽くなる) の変化をもたらします)。

なお、海水の変化をもたらす起潮力のうち、鉛直方向の成分は重力に比べ無視できるほど小さいため海面の 変化に影響を与えません。 一方、水平方向の成分は鉛直方向の成分に比べて更に小さいものの、水平方向には起潮力水平成分 以外に作用する力が無いため、逆に海水の動きに影響を及ぼすことになります。
なお、この起潮力と海水とがバランスした海面を平衡海面と言います。


起潮力の分布

図3-2:起潮力の分布

起潮力の水平分力の分布

図3-3:起潮力の水平分力の分布


そして、この極僅かな作用は、起潮力の働いていない重力でバランスがとれていた海面に作用し海面の形を歪めます。 その結果、海面は重力と起潮力がバランスを保った海面(平衡海面)を作り、図1-3のような ラグビーボールのような形になります。

海面の変化

図3-4:海面の変化


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注意事項

このような考え方を平衡潮汐論(静力学的潮汐論)と言います. ところが実際の潮汐の動きは,月がその地の子午線を経過(正中する)して からほぼ一定時間経過すると高潮又は低潮となります(それぞれ高潮間隔, 低潮間隔と言います). また,平衡潮汐論(静力学的潮汐論)から導かれる潮差は最大約80cmとなり, これも実際の潮差(例えば神戸では190cm)とも一致しません.

これは,平衡潮汐論の前提が「地球が一様な海水で覆われていて大陸・島嶼 は存在しない,また, 海底と海水の摩擦をゼロ」とするとしていますが, 実際には,

  • 水深の分布は一様ではなく不規則まちまちであり,大陸や島嶼が散在 しているため,海水の移動を阻害すること.
  • 海水にも慣性や摩擦があるため,直ぐには潮汐力が追従できないこと.

などがあるため,実際の潮汐の動きと月(太陽)の動きとは合いません.

【補足】

図3-5

図3-5

万有引力の法則から、\( \boldsymbol{PQ} = G \frac{M_m}{D^2}, \boldsymbol{OA} = G \frac{M_m}{d^2}\)

\( \angle{QPR} = \alpha \)とおき、 \( \boldsymbol{PQ} \) の分力を考える。
すると、

  • 鉛直成分:\( \boldsymbol{PR} = \boldsymbol{PQ}\cos(\alpha) \)
  • 水平成分:\( \boldsymbol{PS} = \boldsymbol{PQ}\sin(\alpha) \quad ( \because \cos(90-\alpha) = \sin(\alpha)) \)

同様にして \( \boldsymbol{AO} \) の分力は、

  • 鉛直成分:\( \boldsymbol{OB} = \boldsymbol{OA}\cos(\theta) \)
  • 水平成分:\( \boldsymbol{OC} = \boldsymbol{OA}\sin(\theta) \)

起潮力は、引力と遠心力の合力なので \( \boldsymbol{PQ} - \boldsymbol{OA} \)、 また、起潮力の 鉛直成分を \( F_tv\) 、水平成分を \( F_th\) とおく。

\begin{align*} F_tv &= \boldsymbol{PR} - \boldsymbol{OB} \\ &= \boldsymbol{PQ}\cos(\alpha) - \boldsymbol{OA}\cos(\theta) \\ &= G M_m \Bigl( \frac{\cos(\alpha)}{D^2} - \frac{\cos(\theta)}{d^2} \Bigr) \tag{3-1} \end{align*} \begin{align*} F_tv &= \boldsymbol{PS} - \boldsymbol{OC} \\ &= \boldsymbol{PQ}\sin(\alpha) - \boldsymbol{OA}\sin(\theta) \\ &= G M_m \Bigl( \frac{\sin(\alpha)}{D^2} - \frac{\sin(\theta)}{d^2} \Bigr) \tag{3-2} \end{align*}

ここで、 \( \triangle OMP \) に対して余弦定理を使うと、

\begin{align*} D^2 &= a^2 + d^2 -2ad \cos(\theta) \\ &= d^2 \Bigl\{ ({\frac{a}{d}})^2 + 1 - 2({\frac{a}{d}}) \cos(\theta) \Bigr\} \tag{3-3} \end{align*}

また、 \( \triangle OMP \) に対して正弦定理を使うと、 \( \frac{d}{\sin(\alpha)} = \frac{D}{\sin(\theta)} \Longrightarrow \sin(\alpha) = \frac{d}{D}\sin(\theta) \)

正射影の定理から \( \cos(\alpha) = \frac{d \cos(\theta) - a}{D} \)

\( (3-1), (3-2) \) 式から \( \alpha \) を消去する。

\begin{align*} F_{tv} &= G M_m \Bigl( \frac{d \cos(\theta) - a}{d^3} - \frac{\cos(\theta)}{d^2} \Bigr) \\ &= G M_m \Bigl( \frac{\cos(\theta)(d^3 - D^3) - d^2a}{D^3 d^2}\Bigr) \\ &= \frac{GM_m}{d^2}\Bigl\{ \cos( \frac{d^3}{D^3} - 1) - \frac{d^3}{D^3} \frac{a}{d} \Bigr\} \tag{3-4} \end{align*} \begin{align*} F_{th} &= G M_m \Bigl( \frac{d}{D^3} \sin(\theta) - \frac{\sin(\theta)}{d^2} \Bigr) \\ &= \frac{GM_m}{d^2} \sin(\theta) ( \frac{d^3}{D^3} - 1) \tag{3-5} \end{align*}

\( (3-4), (3-5) \) 式に共通な \( \frac{d^3}{D^3} \)は、

\begin{align*} \frac{d^3}{D^3} = \Bigl\{ 1 + (\frac{a}{d})^2 -2 (\frac{a}{d}) \cos(\theta) \Bigr\}^{-\frac{3}{2}} \end{align*} と置き換えられ、また、\( (\frac{a}{d}) \ll 1 \) なのでテイラー展開を行うと、 \[ \frac{d^3}{D^3} = 1 + 3 (\frac{a}{d}) \cos(\theta) +O \Bigl(({\frac{a}{d}})^2 \Bigr) \]

\( \frac{1}{d^4} \) 以上を含む小さな項を省略して、\( (3-4), (3-5) \) 式を書き直すと、

\begin{align*} F_{tv} &= \frac{GM_ma}{d^3}(3 \cos(\theta) - 1) \tag{3-6} \\ F_{th} &= \frac{GM_ma}{d^3}\sin(2\theta) \tag{3-7} \end{align*}

\( (3-6), (3-7) \) 式を重力加速度( \( g \) )を用いると( \(M_e\) :地球の質量)、

\[ g = \frac{GM_e}{a^2} \Longrightarrow G = \frac{a^2g}{Me} \] \begin{align*} F_{tv} &= \frac{a^2g}{M_e} \frac{M_ma}{d^3} (3 \cos(\theta) - 1) \tag{3-7} \\ F_{th} &= \frac{a^2g}{M_e} \frac{M_ma}{d^3} \sin(2\theta) \tag{3-8} \end{align*}

ここで、月と地球の質量比 \( \frac{M_m}{M_e} \approx \frac{1}{81.3} \)と 距離の比\( \frac{a}{d} \approx \frac{1}{60.27} \)を代入すると、

\begin{align*} F_{tv} &= 0.56 \times 10^{-7} (3 \cos(\theta) - 1) g \\ F_{th} &= 0.84 \times 10^{-7} \sin(2\theta) g \end{align*}

これが月による起潮力になります。 海水は、この起潮力によって移動し、海面を傾斜させることでバランスを保とうとして 平衡海面を作ることになります。

参考文献

  • 中野 猿人、『潮汐學』、古今書院、1940年
  • 彦坂 繁雄、『海洋物理III』、東海大学出版会、1971年
  • 道田 豊・小田巻 実・八島 邦夫・加藤 茂、『海のなんでも小辞典』、講談社、2008年
  • R.O.Reid 杉森 康宏 訳、海洋力学通論、黒潮出版、1985年