海底のプレートの動きをセンチメートル単位で測る
H31入庁(2年目)
沿岸調査課海洋防災調査室
環境科学院(専攻:地球圏科学)
採用区分:数理科学・物理・地球科学
私は学部時代に機械工学、大学院では気象学・海洋物理学を専攻していました。入庁後は海洋防災調査室に配属され、学生時代の専攻から一転、海底地殻変動観測を担当しています。
海底地殻変動観測では、海底のプレートの動きを観測することで、陸側と海側のプレートの間の固着具合の分布や、地震の前後における海底の動きといった、海溝型巨大地震の予測・メカニズム解明に重要なデータが得られます。この観測では、海底に設置した観測機器の精密な位置を測量船によるGNSS測位と音響測距を組み合わせることで測定します。水深1000~5000メートル程度の深い海底の位置をセンチメートル単位の精度で決定する、非常に高度な技術です。
観測に測量船を使うため、乗船する機会が年に数回ほどあります。観測は収録PCの操作がメインで地味な作業ではありますが、長年に渡る地道な積み重ねが数多くの研究成果に繋がっていると考えると、身が引き締まる思いです。乗船中の勤務外の時間は趣味に興じたり、船員から船に関する話を聞いたり、気分転換に甲板に出て大海原を眺めたりと、思い思いに過ごしています。
普段はどのような仕事をしているかというと、主にデータ解析と研究です。データが良好なら解析はスムーズに進みますが、観測は想定外や悪条件がつきもので、上手くいかないことが多々あります。それは観測機器の不調であったり、観測時の天候・海況が悪かったり、もしくは解析プログラムのバグであったり…理由は様々です。学生時代の研究では数値モデルの出力を解析しており、きれいで行儀のよいデータに慣れ切っていた私は当初、様々な想定外に困惑していましたが、ソースコードや解析ログを見てバグの原因を突き止めるという過程を地道に繰り返すことで少しずつ解析技術に関する知識が増えていき、バグへの対処も早くなってきました。まだまだ勉強することは山ほどありますが、着実に成長していることを実感できています。
研究面では、数値シミュレーションを用いて疑似観測データを作成し、これらを解析して様々な条件下で観測精度がどのような影響を受けるか調べています。これまでに2011年東北地方太平洋沖地震による巨大なプレートの動き、南海トラフのプレート間固着分布の解明、南海トラフ周辺海域における長期スロースリップの検出といった多くの重要な研究成果を残し、2019年度の日本地震学会技術開発賞に選ばれた(!)海底地殻変動観測ですが、私が現在研究している観測精度の他にも解析技術の改善、観測頻度の向上、データ公開の在り方など、様々な研究課題が今も山積しています。言い換えれば、様々な分野・観点からアプローチすべき課題がまだまだたくさんある、とてもやりがいのある研究分野であると感じています。
入庁した当初は、地象に興味はあったものの地震学・測地学を専門的に学んだ経験がない私でも大丈夫なのか!という不安もありましたが、杞憂に終わりました。理系の素養さえあればどんな業務でも挑戦することができる、海洋情報部はそのような組織だと思っています。
※本記事は2020年度時点のものです。