海上保安庁総合職職員採用情報

海底の「測る」をきわめる (米国留学)


H28入庁(5年目)
技術・国際課海洋研究室 (留学中)

物理科学研究科(専攻:天文科学)
採用区分:数理科学・物理・地球科学

「留学先のクラスメイトとともに」 


 海底の様子をいかに正確に、いかに効率的に測るか。これは、海洋情報部が創設以来取り組んできたとても重要なテーマのうちの一つです。 海底の情報は航海の安全を担保するために必要不可欠であるとともに、海底の形成プロセスや海水の運動をはじめ海におけるさまざまな現象を理解するための出発点となります。 また近年では、海洋権益の保全という観点でもとても重要な役割を果たしてきました。

 さて、私はいま、米国東海岸のニューハンプシャー大学に留学し、海底マッピングのスペシャリストを養成する1年間の研修プログラムに参加しています。 世界中から集まった若手の技術者や研究者とともに、海底観測の分野をとりまく最新の話題について見識を深める日々はたいへん刺激的なものです。 海底の様子を明らかにするというのはきわめてシンプルなテーマながら、そこにはさまざまな要素が複雑に関係してきます。 まず、あらゆる観測に欠かせないのが水中で使用する音響機器。電磁波は水中ではすぐに減衰してしまうため、とくに深い海の中を詳細に観測するには、多くの場合において音波を使うことになります。 ソーナーが形づくる音響ビームの特性、ソーナーがとらえるデジタル信号の処理などなど、関係する話題にはさまざまなものがあります。 それから、海洋物理学や海洋化学に基づく海水についての知見。海中に発せられた音波がどのように伝播するのか知るためには、その海水の特性を明らかにしなければなりません。 さらには、海底を構成する地質に関する知見。音波の反射や散乱のしかたは物質の特性によって大きく左右されます。 得られたデータを地理空間情報として正しく表現するためには、測地学の分野にも踏み込む必要があります。 これら多岐にわたる話題を注意深く扱ってはじめて、海底の地形をはじめとする意味のある情報が得られるのです。 どれも海底観測の精度を議論するためには欠かせない要素であり、ひとつひとつを極めようとすればいくらでも興味深い話題が出てきます。 学問分野として体系的に語られることの少ない領域ではありますが、そんな隠れた(?)魅力的な分野に関われていることをとても楽しく感じています。

 私はもともと海洋とは縁遠い分野を専攻していましたが、入庁後は3年間にわたって自律型潜水調査機器(AUV)と呼ばれる海中ロボットの運用に携わり、海底マッピングの世界にどっぷりと浸かることになりました。 機器の運用計画を立て、測量船に乗って調査機器を取り扱い、得られたデータについて議論する。 経験することすべてが初めてで戸惑うことも少なからずありましたが、技術的・行政的を問わないさまざまな角度から先端的な問題に取り組むなかで、つねに新たな発見があり、新たな興味をかき立てられてきました。 暗く、底の見えない海の中をどうやって明らかにするか。少しマニアックな世界と思われたかもしれませんが、誰も直接見たことがないものを可視化するという、とてもエキサイティングでおもしろい分野です。 もちろん機器やデータに直接触れる仕事がすべてではありませんが、それでもあらゆるトピックの裏側には必ずその背景となる「技術」が伴っています。 行政組織としてのミッションに対して、手持ちの「技術」をどう運用し、どうやって物事を前に進めることができるか。 調査・観測の現場をもつ海洋情報部ならではの仕事の進め方がここにはあります。

 私がここで述べたことは海洋情報部の仕事のほんの一側面にすぎません。少しでも興味をもってくださったみなさん、ぜひ当部に足を運んでみてください。 きっと、みなさんの興味を刺激するような話が聴けるはずです。自分なりの楽しみを見出しながら課題に取り組めるみなさんと、一緒に働くことができる日を楽しみにしています。


※本記事はR2年度時点のものです。